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慢性疼痛歩行障害専門外来 診療科案内

今回、脊髄刺激治療の専門外来を森山神経センター病院(木曜)(午前)、森山記念病院(金曜) (午前)にて開設いたします。下肢の難治性の痛みでお困りの方や、脳卒中・変形性膝関節症術後・脊髄損傷後にリハビリでも自力歩行等の機能回復にお困りの方を対象にして、ご相談、検査、治療を行なう外来です。

当専門外来の特記すべき点は、難知性疼痛(=神経障害性疼痛)、中枢性感作を伴う疼痛のみの治療だけでなく、痙縮および神経障害性疼痛によるCPG (central pattern generator, 脊髄歩行中枢)や脊髄運動中枢の持続的活動低下の病態を考慮して、歩行障害や運動麻痺の回復をめざしていることです。spinal brain 仮説(中枢神経損傷で、脊髄の代償機能を活用して神経症状を改善方法)に基づき、運動機能回復と痛みの治療を結びつけた、脊髄刺激の専門外来としては国内では少ないと思われます。

Spinal Brain(脊髄脳)とは、脊髄にある歩行中枢、脊髄前運動中枢、固有脊髄神経細胞などの運動調節歩行に関わる神経中枢です。中枢性神経損傷(脳、脊髄)の際、脊髄は自らの脊髄神経機能で、上位の脳の働きを代償すること知見が蓄積してきており、海外の複数施設で、臨床報告もなされています。これにより、脳、脊髄疾患後の運動機能障害を回復させることを目指しています。

治療対象の症状は、痙縮(持続性の筋収縮)と慢性痛(=神経障害障害性疼痛)で、その原因疾患は、脳卒中、脳挫傷や脊髄損傷、その他、帯状疱疹、多発性硬化症、線維筋痛症、整形外科での膝・股・足関節、腰の痛み(手術前後)等です。

通常リハビリで運動機能の改善がなく起立,歩行が安定しない方、種々の鎮痛剤でも抑制できない慢性疼痛の方で、実際には、症状や訴えから痙縮や慢性痛の有無や部位を確認し、薬理学的な反応性を確認し、運動障害の原因になるかを判断します。痙縮の部位に局所麻酔薬を注射し、筋弛緩作用や、筋痙縮に関連する脳へ持続感覚入力の遮断を意図します。以上の方法で、直後から起立保持や、歩行、走行が可能になる方がおられます。通常、この局麻剤の効果は数時間から長くて1-3日ですので、有効例では3ヶ月間持続するボトックス注射をお勧めします。

一方、筋緊張や痛みが広範であれば、当然、局所の注射では効果が不十分ですので、低用量ケタミン静注の方で全身の筋緊張異常部位への作用を評価し、脊髄刺激での治療可能性を判断する検査入院をお勧めしております。有効例では、脊髄刺激の効果『歩行の改善、痛みの軽減など』を患者さん自身に類似体験していただきます。これを医師、理学療法士と患者・家族様で共有していただき、効果予測を一緒に判定致します。ケタミンが無効な場合は、バクロフェンの持続髄注療法を考慮致します。

医師紹介

西野 克寛

対象疾患(原因疾患)

個々の病態で、中枢感作などの新しい観点をふまえ、脊髄刺激治療を用いて、神経障害性疼痛と、痛みによる歩行中枢の抑制を解除して運動の機能回復を目指します。

脊髄刺激有効例の選択

外来診察

その後の治療手順

低用量ケタミン負荷試験

麻酔薬ケタミンは人体で最も多い、脳の運動系、記憶、および痛み調節系(脊髄後索)の興奮性伝達物質、グルタミン酸受容体のうち、NMDA受容体の拮抗薬で麻酔作用を呈しますが、ごく微量では、麻酔作用はなく、神経障害性疼痛や筋痙縮に関連する背骨痛での神経回路の局所の神経伝達を抑制して、一時的に痛みや痙縮を軽減します。

ケタミンの痛み治療、痙縮による運動麻痺、歩行障害の回復は、一時的で治療には不向きです。回復例では、脊髄治療で永続性の効果と相関するとされ、脊髄刺激電極埋込の適応を考えます。

脊髄刺激電極の埋込手術

A)ケタミン試験有効例:全身麻酔下で脊髄刺激電極埋込術を施行

B)ケタミン試験無効例

バクロフェンポンプの埋込術

ケタミン試験が無効な,圧痛点が全身に広範囲にあり、持続性の筋肉収縮(痙縮)があるとき、筋弛緩作用のある薬剤(GABA受容体拮抗薬、バクロフェンを腰部クモ膜下腔へ試験的に髄注し、全身筋緊張の効果を判定します。有効例では、バクロフェンポンプの埋込手術を考慮します。これで痙性麻痺、起立、歩行障害の改善が得られます。

運動神経制御系の最近の考え方

 最近の 30 年間で、随意運動に関与する運動制御の神経系の理解が大きく変化して、随意的な運動は、運動領野由来の皮質脊髄路と脊髄前角運動神経の2つで制 御されるのでなく、脊髄側角にある抑制性介在神経群、spinal premotor center(SPC、 脊髄前運動中枢)が、下行路、上行路の入力を積算統合する neuro-processor の働き をし、前角細胞の出力を制御すると理解されています。さらに、SPC(1980)と第11胸椎体〜第1腰椎にあるCentral Pattern Generator(CPG,歩行中枢), 1998) propriospinal neuron(固有脊髄神経細胞)などが、脊髄損傷後の機能障害 を代償することが示唆され、 Spinal Brain という概念が提唱されています(Barry McKay, 2011)。この観点から 2010 年頃より経皮的脊髄刺激(M Dimitrijevic 2009, Hofstotter et al 2018)、硬膜外刺激により治療が試みられています。脊髄損傷で S Harkema(2011, 2018), (Targeting SCS : Karen Minassian, Barry McKay, 2016,Karen Minassian 2019), 特に、Harkema 等は 2018 完全脊髄損傷で、リハ を追加して皮質脊髄路と CPG のシナプス接続を示唆する状況がありえるとの報告されています。

Spinal brain 仮説

脊髄が脳機能の代償する可能性、脊髄損傷例での神経障害、起立、歩行障害が脊髄の代償作用で回復する可能性を臨床応用する 取り組みがなされています。現在まで、中枢性ノルアドレナリン神経系、および、 脊髄運動中枢による機能回復、特に銀格子電極による、手袋、靴下電極による四肢 の脊髄運動中枢の刺激法により四肢の機能回復や歩行改善に有効性をみいだして います。前者ではDennis Feeney 教授が確立、導入した、ラット、ネコ の感覚運動野損傷モデルによる、行動薬理学的な評価により、薬剤投与後、3~ 6 時間で劇的な、運動機能の回復、歩行障害の改善させるのを見いだされています。同様に、角館総合病院と旧秋田脳血管研究所で行なった、ヒトでの抗パ剤臨床試験や PET による脳代謝、脳血流の解析では、同様に、内包や広範な皮質障害がない脳卒中例で、四肢の筋萎縮が著明でなければ、罹患後期間に関係なく1-2日で運動障害、歩行障害、運動性失語の改善し(http://www.unm.edu/~feeney/movicap.html.)、 これらは言語の改善は投与前の元の状態に戻りましたが、その他は薬剤投与を中止しても、改善が持続しました。 以上の薬理作用は、task負荷が必須で、このためにリハビリ効果を増強する、新たな代償性の神経回路の形成を促進すると考えられました。Hebbの法則を基本とする現象と思われますが、上肢と下肢の反応は異なっていました。上肢の運動 機能の回復や歩行の下肢の緊張状態を調節し、歩行障害の改善するのを見いだした。すなわち、下肢では、運動機能の回復がなくても、歩行の改善がえられていました。これらの薬剤の、作用部位としては、中枢神経そのものとの理解をしてきましたが、最近、Wien 医科大、Bayor 医科大学の Prof Dimitrijevic 教授の一 派、Lausanne大学の Courtine Gregoire 教授(http://Coutine-lab.pdf.ch/)は歩行機能の改善に CPG, 歩行中枢が関与を想定し、これを標的とする脊髄損傷で応用する歩行回復の取り組みが行なわれております。
当外来ではこの手法を脳卒中、脳損傷に応用するものです。

担当医の来歴

Dimitrijevic 教授とその関連 の研究者が作った、ISRN(International Society of Restorative Neurology、事務局長、Arthur Sherwood教授、Duke大学工学部卒)の日本版の研究会を、2008年秋田角館にDimitrijevic 教授夫妻を迎えて立ち上げ、以降、Motor Recovery workshopと命名して2008-2017まで、10年間で計10 回主催しました。歩行中枢、脊髄前運動中枢、固有脊髄神経細胞などによる脊髄機能の代償能を引き出し、脳、脊髄損傷の機能障害を回復させるspinal brain仮説による機能回復法を追及してきました。mesh gloveは、個人的には脊髄前運動中枢を活性化する神経刺激デバイスと考えております。  脊髄刺激に関しては、1kなどの高頻度刺激の効果のほか、同じくDimitrijevic 教授一門で、経皮的な脊髄刺激の導入、治療効果が、脊髄損傷、多発性硬化症などで歩行 の改善が報告されています。 彼らは、脳だけが生存する外部環境の変化を直接、感じ、それに反応する唯一の臓器であると理解しており、このため、脳への直接的な介入の前に、末梢神経への低周波刺激や脊髄刺激治療が有用であると考えております。
細胞移植による神経系機能回復では,癌化のリスク、移植後の機能回復には誘導する負荷運動、タスクが必要ですし,コストが高いのが問題点です。その点からも、脊髄刺激法は,まだ,リハビリのみでは解決できない、脳卒中、脊髄損傷,多発性硬化症等 の変性疾患において、より低侵襲性で神経後遺症や狭心症の治療等に貢献できる余地があると考えられます。経皮的な脊髄刺激、末梢性脊髄刺激,神経伝達機能を修飾する薬剤を併用し適切に使用することにより、DBSの役割を一部分になうことができると感じております。